広島高等裁判所岡山支部 平成7年(く)16号 決定 1995年11月14日
少年 I・S(昭和54.9.28生)
主文
原決定を取り消す。
本件を岡山家庭裁判所に差し戻す。
理由
一 本件抗告の趣意は、少年の法定代理人作成の抗告申立書に記載されたとおりであり、要するに、「少年は日頃から暴走等に加わったことはなく、本件犯行当日も友人を送って行った帰りに、たまたま出会った知人について行って犯行に加わったに過ぎず、正業に就いて真面目に働いているから、少年を保護観察に付した原決定の処分は、著しく不当である。」というのである。
二 そこで、一件記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討するに、本件非行事実は、原決定が引用する司法警察員作成の平成7年5月9日付け少年事件送致書(犯罪事実第一)に記載のとおり、少年が、いわゆる暴走族グループに所属する23名と共謀の上、Aが運転し、少年が同乗する自動二輪車を含む自動二輪車及び普通自動車合計12台の各車両を連ね又は並進し、エンジンの空吹かしや蛇行運転等を繰り返しながら、<1>平成7年3月5日午前2時9分ころ、岡山県都窪郡○○町大字○○××番地先国道×号線通称○○交差点に下り線からさしかかり、上り線に向けて道路一杯に広がり一団となって集団転回するにあたり、折から上り線を同交差点の青色信号表示に従って直進進行しようとした女性会社員運転の普通乗用自動車の進行を妨害し、同人をして衝突の危険を感じさせて急制動の上、同交差点内に避譲停止の措置を講ずることを余儀なくさせ、<2>同日午前2時9分ころから同19分ころまでの約10分間、同所から同市○△××番地の×先同国道通称○△交差点に至る約4.5キロメートルにわたって、上り線道路一杯に広がり、かつ、時速約20ないし30キロメートルの著しい低速走行を行ったため、折りから同集団後方を走行中の前記普通乗用自動車及びB運転の大型貨物自動車等の進行を妨害し、同人をして低速追従することを余儀なくさせ、もって、共同して著しく道路における交通の危険を生じさせ、又は著しく他人に迷惑を及ぼす行為をしたという共同危険行為等禁止違反による道路交通法違反の事案である。右共同危険行為等禁止違反にかかる暴走行為が、通行車両に対する妨害に止まらず、一般地域住民に与える騒音等の被害も軽視できないし、暴走族グループに参集すること自体少年の健全な育成を妨げるという側面も否定できないから、本件非行内容自体を軽視することはできないが、少年は、暴走族グループには所属していないし、本件非行当日も最初から暴走行為に加わるために参加したわけではなく、友人を送っての帰途、自転車で現場近くを通りかかった際、たまたま暴走するために集まっていた者の中に1年先輩の友人がいたため、暴走してみたいとの気持ちになり、同人に依頼し、面識のなかったAの単車に同乗して暴走行為に加わることになったもので、多分に偶発的であるといえる。
原決定は、非行事実につき、司法警察員作成の平成7年5月9日付け少年事件送致書の記載を引用し、少年を保護観察処分に付した処遇理由として、「少年の素質、環境にかんがみ」と記載するのみで、その具体的事実を説示していないところ、本件非行に至る経緯と態様は、前示のとおりで、少年は、過去に暴走行為に加わった形跡はなく、少年に関する限り、多分に付和雷同的、かつ、偶発的に同乗したものであって、悪質であるとまでいうことはできない。しかも、これまで交通事件の係属歴もない。
なるほど、少年には、一般事件の非行歴があって、中学1年生の夏ころから、服装違反や深夜徘徊が見られるようになり、原付自転車の窃盗で岡山児童相談所の継続指導を受け、中学3年生になってからは、授業放棄、校内徘徊及び服装違反等の問題行動が改まらないばかりか、平成6年10月9日には校外において通りがかりの中学生に暴行を加えた保護事件で、岡山家庭裁判所において同年11月11日に審判不開始決定を受け、平成7年1月17日にも少年の通う中学校の後輩を殴って傷害を負わせ、右傷害保護事件は同年2月22日に岡山家庭裁判所に送致された。そして、少年の性格、素質、環境等についてみるに、口数は少なく、劣等感や不満足感が刺激されると衝動的に行動する傾向が窺われ、中学校に在学当時は規範意識や自省の念にも乏しく、暴走族グループに属している者との交遊があり、単車に対する関心も強かったこと、父親には少年の問題行動を軽視する言動が見られ、少年に対する強い指導力は必ずしも期待できなかったことが認められる。
しかしながら、少年は、本件犯行後の同年3月に中学校を卒業し、同月末から○○塗装店で塗装工として真面目に精勤しており、生活態度も改善され、夜遊びや暴走族グループの者との交遊もなくなったこと、少年は、傷害保護事件の調査の際、同事件の審判時までに髪を黒くすること及び仕事を真面目にすることを担当調査官に誓約したが、右約束を守ったこと、少年については、交通非行性より一般非行性がより問題であるところ、傷害保護事件については、同年7月3日不処分となったこと、本件保護事件の原審での審判のときまでに、少年の生活態度や交友状況等が悪化した事情は窺われないこと、原決定後も、右のような事情に変化はなく、無断欠勤は一度もないこと、少年は、父親の許可を得て、原決定後の同年10月に自動二輪事の免許を取得するとともに、給料を貯めて単車を購入し、通勤のためにこれを運転しているが、道路交通法規を遵守するように努めていること、少年の保護者である両親も、勤務先の現場責任者と連絡を取るなどして少年の指導監督に熱意を示していることがそれぞれ認められる。
これらの事実によれば、原審の審判時点において、少年には前示のとおりの非行歴があるものの、その非行性は軽度であるといえ、少年の生活環境及び交友関係は、中学校に在学していた本件犯行当時と比較して著しく好転し、保護者や勤務先の上司の指導監督と相まって、少年の非行再発を防止し得る状況が整備されたことが窺われ、加えて、本件共犯者のうち、非行事実が共同危険行為等禁止違反のみで、自らは運転せず、走行した自動車に同乗したに過ぎない者に対する原裁判所の処分結果との対比・均衡をも考慮すると、少年を保護観察に付した原決定の保護処分は著しく不当なものといわざるを得ない。
三 よって、本件抗告は理由があるから、少年法33条2項前段、少年審判規則50条により、原決定を取り消して原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 福嶋登 裁判官 内藤紘二 山下寛)
抗告申立書<省略>
編注 受差戻し審(岡山家 平成7(少)11507号 平7.12.4不処分決定)
〔参考〕 少年調査票<省略>